Online Magazine: Lolaおばさんと踊る(その2)
“ローラおばさんと踊る”
原題(Original title):DANCING WITH AUNT LOLA
著者(Author):Prof/Dr. Jürgen Kleist<http://jurgenkleist.com/>
あ~あ、ローラおばさん、もう2、3時間待ってくれていたら~。
その2
お腹の周りの泡の山に息をふきかけ、再度シモーヌを見た。金髪で、スリムで、すらっとして、おとぎ話から抜け出てきた女神のようだ。
水滴が真珠のように肌を落ち、ボクはビーチ、砂浜、太陽、そして・・・を自分の寝室に思い描いた。目を閉じてLAにいるローラおばさんを呪った。
「誰なの?」 シモーヌは体をタオルで乾かし始めた。「ローラおばさんって誰?」と訊いた。
ボクは背筋がしびれるような感じがした。
「ん? ボクのおばさん。美しい老婦人で、20代の頃にアメリカに渡って来た。戦争前の1938年だったと思う」
「ユダヤの方?」と言って、シモーヌはきれいな肌にローションを塗り始めた。「違うよ、おばさんは共産党員、無政府共産主義のシンパで、それでね。煙草を吸い、男物のスーツを着て、いつもポケットに手りゅう弾を持っていると強がっていたよ」
「いい加減にしてよ」 シモーヌは鏡越しにボクを見ながら言った。「からかうのは止めてよ」
「誓って言うよ。 おばさんはとても野性的な女性で ・・・」 ボクは天井に右手を向けて上げながら叫んだ。
「野性的な無政府主義ドイツ人で、それでいてロマンチストで・・・」
シモーヌは一瞬ボクを見て言った。「野性的? どういう意味なの」
「おばさんはキャバレーの歌手で、ダンサーをしていた。ベルリンやプラハで、そしてパリには1年間住んでいた。おばさんは、狂った時代、とよく言っていた。狂騒の20代と30代だったって。これまでの恋人の数を数えるのはもう止めたって。」
シモーヌは頭を拭いて、髪にブラシをかけ始めた。ボクはと言えば、彼女が浴槽に戻って、また互いに石鹸で洗いあいすることができればと願った。
「ダンサーだったの? それは、それは」シモーヌは鏡の中の自分の顔を確かめた。
ボクは諦めて、浴槽の栓を抜き、泡の海が沈んで低くなるのを見つめた。
「で、おばさんに会いにいくの?」シモーヌは髪をとかすのを止めて応えを待った。
水はゴボゴボと音を立てて消えた。ボクは立ち上がってタオルを掴んだ。
「さー、分からないけど。おばさんのことが好きだし、素敵な女性だし。とてもチャーミングでウイットがあって。でも、明らかにおばさんは病気で、医者たちにはこの先長くはないと言われている、と言ったよね」
シモーヌは強い調子でうなずいて、ボクを見た。「お医者さん達、そんなこと言っていいの?」
「本当のことを告知するように要求されているんだよ。でないと訴えられるから」
シモーヌは信じられないようにボクを見た。
「ということは、おばさんが死ななかったら、医者たちを訴えることができるの?」
「よくは知らないけど、変だね」
その3に続く