「ホモ・デウス」(Homo Deus)ピックアップ(1)

「サピエンス全史」の著者であるYuval Noah Harari(ユヴァル・ノア・ハラリ)が描く《テクノロジーとサピエンスの未来》と表現できる著書「ホモ・デウス」からのPickupその1です。

¶人間は幾世代にも渡って、飢餓と戦争と疫病のせいで膨大な数の人々が命を落としてきた。これとの戦いは功を奏して今日、食べ物が不足して死ぬ人の数よりも食べ過ぎて死ぬ人の数の方が上回っている。今や、この先の私たちの身の処し方として「《バイオテクノロジーと情報テクノロジー》がどれほど巨大な力を私達に与えてくれているか」という前代未聞の問いかけを自らに向ける必要性に迫られている。 

¶これは「サピエンス全史」で記述されている認知革命と密接に関係する。つまり、7万年前に起こったとされる「フィクション(存在しないもの)を信じる能力」によって人間は他の生物には見られないほどの大規模な社会的協力が可能になった。これがあってその先に農業革命と産業革命という二つの革命が起こった。—このようなストーリーで如何に人間が人間らしくなったかという物語の展開となっている点に特徴があります。その2では生物学的貧困線に触れられており、これを紹介したい。

The Messages from Highly Effective Researchers/Scientists

物故された先生方から頂いた、今でも心に残るメッセージについて記憶をたどって列挙しました。

恩師の方々:カッコ内は松尾が教えを受けた時期。

★石黒伊三雄(1962年から、断続的に)

Key Word:ビオプテリン/ビタミンB2/フラビン/ロイヤルゼリー

藤田保健衛生大学(2018年10月より藤田医科大学)第一生化学教室は1974年に石黒伊三雄教授によって開講された。

真の教育は私学にあり。教育とは何年も後で分かること。そのときに分かることは単なる気付きだ。

★堀尾武一(1964年~2003年逝去されるまで)

http://www.protein.osaka-u.ac.jp/about/history

大阪大学蛋白質研究所歴代所長を参照

次回はこの先生の語録に特化したいと思います。

★Mark Bitensky(1975年~1977年@Yale Univ. 2014年逝去)

Key Word:Cyclic nucleotide/Light-activated GTPase/Retina(Retinal)

Be Skeptical Discussion& Argument Make typical example

Negative Dataが大嫌いで、Technicianが捏造したくなるのがよくわかる。

全てにおいて反面教師で、大変勉強になりました。

★Gordon H. Sato(1981年~2017年逝去されるまで断続的に)

Key Word: Cell biology/Monoclonal antibody/Manzanar project

Good business based on good research.

More money and freedom to young researcher.

日系二世の根性の塊がDriving Forceになっている。

恩師 堀尾武一先生のこと《ご逝去まじか》

あれから16年たちました。忙中閑ありではありませんが、先生の語録を紹介したいと思います。その前にまず、お亡くなりになられる直前の思い出を、と思います。

—–先生は、2002年10月17日に「一哲会」(12年ぶり開催の同門会)にお元気で出席されました.その会の冒頭でのご挨拶.「弟子百数十人の中で鬼籍入りの方は二人,お一人は何とも仕様が無かったが,もう一人はその兆候があった.僕にもう少し医学的知識があれば救えていたのに,と悔やまれます.皆さん,僕よりも早く死ぬというような親不孝をしないように元気で頑張って下さい」.上海にあるFudan大学・Huang教授もOYCとの関係で来日しておられ幸運にも堀尾先生と旧交を温められました.会の最後に松尾が「堀尾先生はお見かけした通りお元気で,先生より長生きするにはそれなりの覚悟と遺伝的資質が必須ではないかと思います」と挨拶したのを覚えています.

奥様からお伺いしたことを要約します.

  • 12月初めにスキーに行かれ,その後で背中に痛みを訴えられ(八高時代の野球で痛めたせいかな?スキーかな?).
  • 少しきついので娘さん(内科医)が勤務しておられる病院で精密検査され,肺癌であることが判明.
  • 放射線治療,イレッサなど試みたが,効果は全く無く,2週間余りで癌はさらに大きくなり,身辺整理をされる間も殆ど無く1月中旬に入院.
  • 2月15日に奥様から「松尾さんに会いたがっています」との電話で状況を知った.
  • 2月19日にお見舞いに行った折には余りのお変わりようで驚愕し,また先生が覚悟をしておられることも察せられました.

以下先生との会話です(終始手を握らせて頂いての会話でした).

  • 堀尾「松尾さん,アメリカから帰ってきて良かったナー.OYCに入って良かったネー」
  • 松尾「ありがとうございます.先生の遺産があってお陰さまでBIOも何とか格好ついています」
  • 堀尾「僕にはアワンかったけど,松尾さんにはヨーオータ会社で,OYCに入ってよかったネー.内藤さんともエーコンビやで」
  • 松尾「そうです.Chemistryが合っています」
  • 堀尾「僕は本間さんとはイチイチアワンかったし,何で,あんなにゴルフのスコア―を気にしはるのかナー.僕はヒトを恨んだりはせんけど...内藤さんに頼んで早く長浜に戻してもらい.長いこと奥さんと離れていたらシンドイデ」

(この間「ティッシュ買ってきて」というエピソードがありました)

  • 堀尾「モウ来んでエーデ.来る必要ないデ.そやけど,僕みたいな癖の強いモンと長いこと付き合ってくれたナー.アリガトウ」

治療を拒否され死を覚悟しておられることが分かり,改めて手を握り締めて涙しました.

病室を去る折りに「また来ます」と言ったらいつものように右手を斜め上に上げて挨拶されました.生気の無くなったご自分の手を暫く見つめておられたのが印象的でした.結局,チャンとお話できたのはこのときが最後でした.その後,ホスピスに移られモルヒネを背中と肩から除放注入され,栄養補給を徐々に減らす衰弱死という方針とのことでした.ご本人の精神状態を考えての方策とのこと.病室は独特の臭い(いわゆる死臭)で長くて10日か,早ければ1週間と思いました.(3月15日のことだったと記憶しています.その折,ヤトロン内藤社長が来られたときのお話を伺いました)

気を許せる弟子が少なかったせいか,松尾と角野さん(最後まで助教授をされた方で,現MS機器常務)しか,早くに知らせてもらえませんでしたが,奥様を説得してお許しを頂き,数人の弟子がご存命中にお会いすることが出来ました.

前年の11月20日のOYC顧問会でもお酒を酌み交わされてお元気でした.珍しく咳をしておられ,あれっ(??)と思いましたが,まさかこんなことになるとは.恩師の生き様,死に様は「堀尾先生は精神的な支え」であっただけにショックは隠せませんが,これを機に自分の行き方をよくよく考えようと思っております.

—–生き様、死にざまをいくら考えても何の展開もないまま16年たってしまいました。昨年秋には一哲会解散会がありました。個人的には、心の整理には全く役にも立っておらず。やりきれない気持ちで語録集をアップすることを思い立ちました。思い違いを指摘されるのを覚悟ですが、ありましたらご容赦ください。松尾 拝(2019年5月20日)

BDHQサポートセンター宮原富士子氏のセミナー予定

2016年1月27日(水)夕刻に大阪グランフロントにあるナレッジキャピタルにて宮原富士子氏のセミナーを開催します。話題は氏が理事長をしておられるNPO法人HAP(Healthy Aging Project for Women)の活動の数々のエッセンスを紹介頂きます。女性の生涯を通じての健康維持の知恵などを科学的に、薬剤師としての知識をベースに紹介頂くことになると予想しています。HAPセミナーでは女性が対象ですが、女性が健康であれば、必然的に男性も健康を維持できると思われますし、逆もまた然りです(?)。ただ、内分泌学的には、男性に比べて女性はホルモンの大波小波にさらされ、ときには劇的な変化を体験されます。そして、なおかつ男性よりも元気で長寿で、とても不思議な気持ちがします。単なる生殖生物学的な面だけではなく、ここまで進化したヒトのエピゲノムの絶妙さにひたすら驚異を感じています。今回は少人数のセミナー&意見交換会なので、人数制限がかかっておりますが、ご興味あるお方はお問い合わせください。では、良いお年をお迎えください。

食を語らずして先制医療と言うべからず(3)

食習慣と先制医療は切っても切れない関係にあります。ことさらに先制医療と言わなくても、現代人の常識かと思います。但し、自分で行動変容を受け入れることができるかどうかは別の問題です(動機づけの項参照)。近時の健康医療政策での注目すべき点は、ある年齢に達してからの生活習慣が重要であるという従来の視点を大幅に修正し、胎児期からの栄養が遺伝因子と関わって大きく関係しているとする「生活習慣病胎児期発症説(DOHaD説)」(日本DOHaD研究会)に焦点があてられていることにあります。つまり、妊産婦のやせ願望による低栄養、児の出生体重低下が日本の将来を危うくしているという危機感がJSTの研究開発戦略においても強調されています。問題は、これを解決するためには、妊産婦と小児を対象とするバイオリソース/データバンクが存在せず、コホート研究ができない点にあります。医療法人葵鐘会(名古屋市)では中京地区において年間1万分娩近くを扱っていることから、理事長の山下守先生(名大・産婦人科出身)の事業戦略としして、BIRD事業の名のもとにバイオバンク構築に取り組み始めています。ここでは、妊産婦対象の食習慣調査が行われる予定で、妊娠中毒や産後ウツを含めた先制医療への貢献が期待されています。このProjectと、健常時からの歴年的バイオバンク構築を進めて4年目になるRECHS事業が連結すると、2型糖尿病、骨粗鬆症、認知機能低下症(典型例:アルツハイマー病)並びにガンなどの先制医療は一歩大きく前進することになるでしょう。言わずもながのことですが、生活習慣の中で「お母さん(母体)の栄養」から始まる食習慣は重要な位置付けにあります。

weblog:先制医療と食(2)

動機づけの話です。ライフスタイルの変容(例:食習慣などを変える)は、そんなに簡単ではありません。例えば、肥満傾向の人に喫煙での心筋梗塞を予防するために禁煙を勧めても喫煙者の全員が心筋梗塞を起こすわけではないので、治療者側には迫力はなく、患者は患者で自分を適用外において、つまり「自分には鉄砲の弾は当たらない」と思い込み、禁煙しません。自分のデータが反映されているのかどうか分からない多くの人に、危険因子を避けて先制的に疾患を予防しようとする動機づけをするのは容易なことではありません。その人の(個々人ごとの)データで、その人ごとに何らかの〝褒賞〟が必要となります。などなど考えていると、先制医療による医療費の抑制と言う経済効果は本当にあるのかな、などと気になっています。勿論、医科学の進歩になることは間違いありません。

weblog:先制医療と食(1)

目下、雑誌「臨床化学」の特集号で「先制医療実現に必要なバイオリソース/データバンク:夢の実現に向けて」の原稿に取組んでいます。一言で云えば、どのような先制診断を行い、どのような対策(治療)を取るか、そしてそれをどのような方法で検証/確立するか、が課題です。バイオマーカーと疫学的調査情報が重要ですが、日本には健常人のコホート研究のできるバイオバンクはありません(疾患のバイオバンクはあります)。病気と関係する何かを見つけても、それがその病気に特異的なことなのかどうかを健常者と比較できなければ、使い物にはなりません。話題のマイクロRNAによる癌診断も同じことです。一昔前は、早く診断できても、治療方法が同調して進展していなければ「あなたは体のどこかに癌があります」と言われて、余計な苦労をしょい込むことになるだけです。癌に関しては、幸い早期診断で早期治療することができるようになりつつあります。他にも気になる病気があります。糖尿病、ウツ病、認知機能低下症(典型例はアルツハイマー)などはどうでしょうか。どうやら、医食同源の病気と、早期治療介入の必要な病気の二つに分かれそうです。前者の方で気になることがあります。恐らく数年後には「食習慣は極めて重要因子」になるので、食べることに今よりも神経を使わなければならなくなるでしょう。身体に良いモノを追求する(悪いものを排除する)傾向が強くなります。これはこれでとても危険で「あれはよくない、これは身体に良くない、これはどうだ」などという生活をしているとストレス死してしまうでしょう。「体に悪いと分かっていることが一つくらいあっても良い」という生き方も大事です。先制医療が進むと「その人の人生観」を基盤とするライフスタイルが鍵となってきます。(動機づけに続く)

weblog 先制医療/診断と言うパラダイムシフト

先制医療(Preemptive Medicine)という言葉を耳にするようになって来ています。ゼロ/一次予防医療とほぼ同義で、イメージとしては「未病治療」です。但し、先制診断法(Preemptive diagnosis)という新たな診断法が確立されて初めて成立する仮想概念です。課題が幾つかあります。(1)どうやって診断するのか、(2)診断方法を提示されても、それを検証する場がありません。(3)対象となる疾患のどの時期が先制治療のターゲットなのか、(4)疾患ごとに違うにしても、「生活習慣病胎児期発症説」(Barker博士提唱のDOHaD説)を取り入れると卵子の栄養状態からその範囲に含まれます。とは言え個の医療と関係して医療科学分野でのパラダイムシフトの起爆となっています。健常状態からの生体サンプルとこれにタグ付けされた医療情報の歴年的蓄積が必要となって来ています。興味あるお方は一般社団法人健康科学リソースセンターhttp://www.rechs.org/ にアクセス下さい。