食を語らずして先制医療と言うべからず(3)

食習慣と先制医療は切っても切れない関係にあります。ことさらに先制医療と言わなくても、現代人の常識かと思います。但し、自分で行動変容を受け入れることができるかどうかは別の問題です(動機づけの項参照)。近時の健康医療政策での注目すべき点は、ある年齢に達してからの生活習慣が重要であるという従来の視点を大幅に修正し、胎児期からの栄養が遺伝因子と関わって大きく関係しているとする「生活習慣病胎児期発症説(DOHaD説)」(日本DOHaD研究会)に焦点があてられていることにあります。つまり、妊産婦のやせ願望による低栄養、児の出生体重低下が日本の将来を危うくしているという危機感がJSTの研究開発戦略においても強調されています。問題は、これを解決するためには、妊産婦と小児を対象とするバイオリソース/データバンクが存在せず、コホート研究ができない点にあります。医療法人葵鐘会(名古屋市)では中京地区において年間1万分娩近くを扱っていることから、理事長の山下守先生(名大・産婦人科出身)の事業戦略としして、BIRD事業の名のもとにバイオバンク構築に取り組み始めています。ここでは、妊産婦対象の食習慣調査が行われる予定で、妊娠中毒や産後ウツを含めた先制医療への貢献が期待されています。このProjectと、健常時からの歴年的バイオバンク構築を進めて4年目になるRECHS事業が連結すると、2型糖尿病、骨粗鬆症、認知機能低下症(典型例:アルツハイマー病)並びにガンなどの先制医療は一歩大きく前進することになるでしょう。言わずもながのことですが、生活習慣の中で「お母さん(母体)の栄養」から始まる食習慣は重要な位置付けにあります。