Online Magazine: Lolaおばさんと踊る(その4)

 

“ローラおばさんと踊る”

原題(Original title):DANCING WITH AUNT LOLA

著者(Author):Prof/Dr. Jürgen Kleist<http://jurgenkleist.com/>

 

—そのときまた電話がなり始めた。

その4

ボク達は互いに見詰め合った。シモーヌは取り乱したようだった。ボクは柔らかな恐怖の目つきをした。

機械音がカチッと入った。また、ローラおばさんだった。

 「分かっているのよ、そこにいるのは、カートちゃん」おばさんは陽のさす5月の朝の小鳥のような鳴き声で言った。

「私には今あなたがそこにいるのが見えるの。何と愛おしい少年だこと。今は立派な男性になっているのよね。女の子たちは間違いなくあなたに恋するわよ、私のカサノバ(女たらし)ちゃん。電話を取って年老いたローラおばさんに挨拶してよ。私、病気なの、ひどい状態よ。聞いている?ひどいのよ」 声が落ちてすすり泣き始めた。

シモーヌがゆっくりとボクを押し出した後、受話器を取った。「ローラおばさん、聞いています?」

「聞いているわよ、カート。ねー、前にも電話したのよ。あなたと話をしたいの。私のいるLAに来て欲しいの、分かる? お医者はね、余命3-4か月と言うの。分かる? 3、4か月よ。お医者は多分3か月だろうと言うの。でも、誰がそんなこと分かるというのよね。ゴールドシュタインという先生で、良いお医者よ。この分野でのエキスパートで信頼できるわよ。国際的にも評判が良いの。でもね、お金がかかるのよ、とても。もう少し長生きすると破産してしまいそう。1時間診て貰って450ドルするの。『貧乏になる前に死んだ方ましだわ』なんてお医者に言うの。お医者はね、肩をすくめるだけ。信じられる?」おばさんは声高に言った。

「ローラおばさん!待って、待って!」ボクはおばさんを落ち着かせなければならなかった。

「待って、おばさん。死にはしないよ」ボクはできるだけ静かに言った。「死にはしませんよ」

「でもね、カート、今死なないと高くつくのよ。450ドル取る今日いまどきのお医者はハゲワシの様なものよ。バンパイアで、ハイエナで、ヒルよ」

「ローラおばさん、聞いて」 ボクは叫んだ。「別のお医者に診て貰って、第2の意見を貰った方がいいよ。何事にも確実と言うことはないから」

「愛しのカートちゃん」彼女は柔らかく3歳の子供に語りかけるように言った。

「これね、既に第2の診たてなの。本当のことを言うと、5番目なの。あらまー、最初のお医者の言うことを訊いていれば、とても節約できたのに」

ボクは深く息をした。シモーヌは扉のところで黒の衣装で立っていた。ボクは相変わらず裸で、震え始めていた。コニャックをもう一杯注いで一気に飲んだ。彼女は少し近くに来て、髪の毛の匂いがするようだ。もう一杯注いだ。

「ローラおばさん、ボクに何して欲しいですか?」

「分からないわ、カート」と言って、またすすり泣きだした。「私は人生の旅の最後に近づきつつあるの。最後の章が書かれている。三途の川を渡るところで、黄泉の世界が呼んでいるの」

「ローラおばさん」ボクは話をさえぎって「何も書かれてはいないよ。まだ、川を渡ってもいないよ」

おばさんは「あーそー」とため息をついて、少し間をおいた。

「あなたに会いたいの、ダーリン。もう一度。分かる?最後にもう一度。それから、二人でメキシコにドライブして、アカプルコかメリダか、サンクリストバルか。メキシコ、私の大好きなメキシコ。遺跡、トーチラス、マルガリータ、その全てが。それはナポリを見るようなの。あー、ナポリ、大好き」

おばさんの声はまたまた高まり始めた。

「かつて、ヘアドレッサーとそこに飛んだことがあったのよ。博物館、石棺の裏側。待って、待って、彼の名前はカルロ・ルイジ何とか。待って、分かった、カルロ・ルイジ・ベネヴィータ。そう、カルロ・ルイジ・ベネヴィータ。彼はとても素敵で、感覚的で、この世の女性は誰も彼をベッドからけり下ろしたりなんてできない。そういうことが起こったとしてもの話。仔牛のスカロッピーニのような赤み肉のようにとても味があって。彼はナポリの全てを見せてくれて、私も幾つか見せたわよ」

「そうでしょうね、ローラおばさん」ボクはコニャックをもう少し飲んだ。

「でもね、ナポリには戻りたくないの。この頃はとても人が多くて、ベスビアス火山が再び噴火するという話をしているし、とても危険よ。私はメキシコに行きたいの。そして大きなピラミッドを全てもう一度見たい。パレンケよ。パレンケに行ったことある? ジャングルの真っただ中にあって、なのに、とてもゴージャスよ」

シモーヌは突然ため息をついて、大きな目でボクを見た。

「誰なの?」ローラおばさんは訝った。

「シモーヌだよ」ボクは細身の体に柔らかな絹をまとっているシモーヌを見た。

「誰なの?」

「友達だよ、おばさん」

「エリカとはどうなったの。それとも、お前が狂っていたヒーサーという女(ひと)なの?」

その5に続く