“ローラおばさんと踊る”
原題(Original title):DANCING WITH AUNT LOLA
著者(Author):Prof/Dr. Jürgen Kleist<http://jurgenkleist.com/>
「よくは知らないけど、変だね」
その3
ボクはシモーヌの方に足を踏みだし、目を見た。ボク達は未だ服を着ていなかった。 だから、未だ望みを捨てていなかった。
でも、シモーヌはボクの目を避けていた。
彼女はというと、もうローラおばさんの電話のことに関心が移っているようだった。 「おばさんは、あなたに会いに来て欲しくて何か言っていたわよ、違う?」
ボクは少しうなずいた。
「シモーヌ、君はとても綺麗だよ」ボクは暗い声色で話を変えようと試みた。 シモーヌはそれには興味を示さなかった。
「何かの前にもう一度あなたに会いたい、と。」
「神に召される前に・・・とか」ボクは間を置いて言った。それから、もう一度「君の髪は黄金の野原のように輝いている」と言ってみた。
あれー、ボク本当にそう言った? もう少しましなこと思えなかったかな。ボクそんなに絶望的だったかな?
3週間以上もの間、ギラギラの目つき、夜遅くの電話、ワインと彼女の言葉に酔ってそしてボクの脳に、心に無意識下に沈みこむデリケートな顔に酔って作った三つの詩。その一方で、彼女はここにいて、天使の夢と眠れない夜に書いたおとぎ話に出てくる妖精だった。ボクは目を閉じて、二人が寝室にいるところを想像した。
シャンペン、エドシックはグラスの中で泡を出し、蜜の香りのロウソクがメッセージを送っていた。
「トイレ、使ってもいい?」シモーヌは少し急いだ感じでボクを見て言った。
「勿論、どうぞ」ボクはやさしく答えた。「勿論、勿論」
今日はなぜ神は僕に罰を与えられるのか。このときに、この瞬間に、神の無慈悲を受けるのか。惑うことなく、今からすぐにでも行儀よくするし、神の恩名の下に子羊をささげます。でなければ、少なくともスーパーマーケットで肉を買って土曜日に料理してワインを飲みます。
ボクは真実を語ることを約束し、真実以外の何ごとも言いません—その代わりにこの素敵な女性を愛させてください。
「私・・・本当に電話しておかないと」 シモーヌは目を天井に向けて言った。
ボクは、「あー、ごめん」と心底そう思った。
「すぐに戻るから、どこかにいっては駄目よ」とシモーヌは囁いて、ボクの心臓が踊り始めるようなキスを投げかけた。
「ありがとう。とても」ボクは上の空で言った。 「何?」シモーヌはボクを見て訝った。
「何も、何も、ベッドで・・・」 ボクが言葉を発する前に、シモーヌは扉を閉めた。
ボクはローラおばさんの留守録を巻き戻し、コニャックを飲んだ。疑いもなく、おばさんは助けがいるか、少なくとも慰めの言葉が必要であった。ボクは時計を見た。電話をかけて、病気のことや、ボクに何をしてほしいかなどをチャンとするのに遅い時間ではなかった。
ボクはダイヤルし始めたが、途中で受話器を置いた。ダメだ。おばさんが何と言おうとシモーヌとの夕べは台無しになるだろう。シモーヌはバスルームでボクを待っている。ゴールは目の前だ。
おばさんには待ってもらわないと。ボクはバスルームの扉が開くのを聞いて振り向いた。シモーヌは夢のような黒の絹衣をまとってボクの方にやって来た。
ボクはもう一度コニャックをなめ、現実のことなのか、と自問した。
「準備できてる?」とシモーヌは髪を後ろにやって言った。彼女の眼はボクの体を上に下に訝しげに見た。
「そー、ボクは、ボクは・・・」腕をシモーヌの方に回した。匂いがボクを誘い、酔わせた。ボクはこの束の間のやさしい今夜を神に感謝した。彼女の眼を探し、目を見つめていると、暗い穴に落ちていきそうで、頭が回り始めた。ボクは何かロマンティックなことを言おうと思って結局「あー、シモーヌ、何といえばいいのか」と囁いた。それからお互いにキスをした。ボクの腕は別個の命を持つように動き始め、彼女の体をボクの体に強く押し付けるのを感じた。—そのときまた電話がなり始めた。
その4に続く