“ローラおばさんと踊る”
原題(Original title):DANCING WITH AUNT LOLA
著者(Author):Prof/Dr. Jürgen Kleist<http://jurgenkleist.com/>
「エリカとはどうなったの。それとも、お前が狂っていたヒーサーという女(ひと)なの?」
その5
「おばさん、何のこと言っているんですか。ところで、今どんな感じですか?薬を飲まないといけない状態ですか?」
「そーよ、カート。そうなのよ、薬を一杯詰め込んでいるのよ。緑色の薬、赤色の、紫色のと、まるで虹を丸ごと飲み込んでいるみたい」
「で、効いてる?」
「勿論よ、効いてるわよ。別の飲み方がいいかね。私は紫色のが一番好きなの。これ1つで、夏の雨の日のカエルのように幸せなの。2個飲むと、」
「ハマグリになる?」とボクはほのめかした。
おばさんが頭を振るのが見えた感じだった。
「とても幸せで、雨の日の2匹のカエルのように」と強調して言った。
そう、そうだろうな。ボクはシャンペンを飲み終えてボトルを見た。シモーヌはボクを見た。ボクはそこらじゅうに鳥肌が立っていた。
「薬が効くようでよかった」
おばさんは「あー、紫色を2つ、黒いのを1つ飲んだときの私を見てよ」と叫んだ。
「カエル跳びする?」
「茶化してはダメ」シモーヌはしーっと言って怒った顔をボクに向けた。「おばさんは、助けのいるかわいそうな女性よ」
「何って言ったの?」ローラおばさんは詮索した。
「紫色を2つと、黒いのを1つ飲むとどんな感じになる?」おばさん。
「昔のように踊りだすの」
「踊る?」ボクは寒くてシャツか何かを取ってとシモーヌに身振りで頼んだ。
「そーよ、踊りよ。赤い靴を履いて、オールドタウンにあるフラメンコクラブの近くのサルサ・カリエンテ。私はマルガリータを一つ二つ。そしてジョセフィーヌベイカーのように明け方まで踊るの。あのセクシーなバナナ葉ドレスを着ていない以外は」
ボクはローラおばさんがかつてジョセフィーヌベイカーのようにバナナ葉衣装を着てウイーンでパーフォーマンスしたことをボクに話したのを思い出した。そして聴衆のほとんどが気が狂ったようになった。特に、おばさんがトップレスで踊ったときは。
ボクはシモーヌが手渡してくれたタオルを取って肩にひっかけ、コニャックをもうひとすすりした。
「で、おばさん、少し聞かせて。そういったことなどがボクにどうあてはまるの?」
「ねー、カート」ローラおばさんの声は暗くなり、悲しく言った。
「あなたに来て欲しいの。そしてメキシコにドライブしたいの。最後にもう一度ピラミッドを見たいの。年老いて病気のおばに、そうしてくれない?できる?」
おばさんはまたすすり泣いた。ボクはシモーヌを見た。彼女も目に涙をためていた。
「ローラおばさん、分からないよ、ボクは、、、」
「心配ないわよ、私が全部支払うから。あなたは一銭も払わなくてよいから、こっちに来て私をメキシコに連れて行ってくれれば」
おばさんは、声を低めて囁いた。「最後の旅よ、カート、お願い」
紫と黒色の薬でハイ状態になっている死にかけのおばさんを自分の良く知らない地方にドライブして連れて行くというアイディアにとても戸惑っていた。ボクは涙をこらえようとしているシモーヌを見た。おばさんはすすり泣き懇願した。「お願いよ、カート」 ボクは天井を見て、そうでないときはとても束の間でやさしい神からのサインを願いながら。
「そー、ローラおばさん」ボクは一拍間をおいてやさしく言った。「ボク、そちらに行くよ。メキシコにドライブしよう」
「あら、まー」おばさんの喜びの叫びが部屋中に広がり、シモーヌは腕をボクの腰に回して引き寄せた。ボクはグラスをテーブルの上に置いた。
「そうしなければ」シモーヌは言った。
「おばさんにはあなたが必要で、あなたをとっても愛しているわ」
突然にあらゆる障害が取り払われ、ボクはシモーヌの左の乳房にキスを、次に右の乳房にキスをした。それから、左側にもう一度。野性的に、野性的に、そして柔らかく、柔らかく。乳房はとてもきれいで、熟れていて、おいしかった。ボクは鳥肌が立っていたので、シモーヌにローブを取って来て、と頼んだ。
「愛してるよ、ローラおばさん」ボクは電話に向かってため息をついた。言いながらボクの心は砕けてしまっていた。
「愛してますよ。お望みのこと、何でもやりますよ」
「なんと、素晴らしい少年だこと。で、一緒にいる女(ひと)は誰なの?」
「シモーヌ、シモーヌだよ」
「きっとかわいい女(ひと)でしょうね」
「信じられないと思うよ」ボクは囁いた。「彼女は天使のようで、夢のようで、とっても愛らしい目をしていてゴージャスな体で、、、」
シモーヌはボクのローブをもって戻ってきた。
「幸せなんでしょうね」
「そー、おばさん、とっても」
「よかった、よかった。でも急いでここに来て」
「いつ?」
「あした」
「あした?」
「ここ二日のうちに」 ボクはくしゃみをしたくなったので、深く息を吸った。「はい、分かった。そちらに行きます」
ボクはおばさんが受話器を置くのを待った。
「金曜日までに」と、ボクは無言でうなっている電話に言った。
当然のことながら、おばさんの電話のせいで、シモーヌとの夜は台無しになってしまった。でも、詰まった鼻でくしゃみと震えで悲惨な状態よりもむしろよかったかも知れない。ボクらは黙って分かれた。風邪を引いた恋人ほど悲惨なものはないと思い知った。
ボクはコニャックのボトルを持ってベッドに行った。毛布の中に深く、深く入り込んで、一緒に居れなかったシモーヌの夢を見た。毛布はボクに暖かさと孤独の分別をくれていて、その夜はぐっすりと眠った。
その6に続く