栄養データはこう読む(佐々木敏先生の栄養疫学)から(3)

松永和紀さん著「メディア・バイアス:あやしい健康情報とニセ科学」(光文社新書)は元毎日新聞社の記者として活躍された女性ジャーナリストで、この著書で科学ジャーナリスト賞を受賞されました。佐々木先生も表題の著書で「情報バイアスと言う落とし穴」として情報バイアスとその怖さについて最後の締めくくりとして取り上げておられます(p.296)。—関わる要因としては①研究者(情報の生産者)、②売り手・マスコミ(情報の伝達者)、③読者・視聴者(情報の利用者)、の三点があり、これら皆が情報バイアスを生み出し、広めている。健康を支える「食」の情報なので、それぞれの立場で情報バイアスの存在に注意し、バイアスの発生源や伝達者にならないように注意しなければなりません。本物を追求するGEN srlを主宰する(CEO)Saito Yukakoさんのことも気にしてみてください。 http://www.gen.education/ja/

栄養データはこう読む(佐々木敏先生の栄養疫学)から(2)

p.4の「EBN(*)と栄養疫学」から引用、改変—人間栄養学の基礎知識と栄養健康情報を正しく取捨選択できるすべを身につけておれば、幾つかの病気を防ぎながら毎日の食事を楽しむことができるはずです。でも人間栄養学のどの情報がどのような研究によって明らかにされたものであり、どれがそうでないかを見分ける方法を身につけていません。教わっていないからです。

(*)EBN:Evidence-based nutrition(根拠に基づく栄養学)

栄養データはこう読む(佐々木敏先生の栄養疫学)から(1)

佐々木先生は「2015年版日本人の食事摂取基準」のWorking Teamのリーダーです。このダイジェスト版は既にUpしております(7月9日づけ)。表題は先生の最近の著書(女子栄養大出版部)です。内容のカギは根拠に基づく栄養学(EBN: Evidence-based Nutrition)で、食習慣(栄養素摂取量)と健康状態との関係を調べた研究結果です。以下は、油に焦点を合わせた栄養疫学Q/Aの抜粋で、脂と健康に関する短絡思考の誤りを科学的に説明しておられます。先生はBDHQという食習慣調査の開発者でもあり、これがきっかけで斎藤先生と松尾とも接点があります。
・では、どの植物油で揚げるのがよいでしょうか?
日常的に食べている揚げ物の揚げ油ではコレステロールは上がらない!
 (p.41を参照)
・高中性脂肪には脂質を控えればよいか?
炭水化物を控えて脂質を増やす!
注:炭水化物、脂質、蛋白質はエネルギー(カロリー)源になる栄養素です。アルコールもそうです。なので、どれでも必要以上に食べればその分は肥満に繋がります。但し、同じ重さならば脂質が最も肥満に繋がります。1gあたりのエネルギー量は炭水化物や蛋白質の2倍以上あるからです。
(p.58を参照)
(続く)

日本人の食事基準、2015年版

2015年版で大きく変わったと評価されている「日本人の食事基準」が運用されています。科学的根拠に基づいた記述に特徴があり、関係者のご苦労がうかがい知れます。私見を少し挟んだダイジェスト版を作成しました。皆様のお仕事やお仲間の健康管理に貢献することがあれば望外の喜びです。日本人の食事摂取基準2015年版ダイジェスト

 

奥伊勢BSC第二回記念講演会「食品の機能性表示制度」終了

科学ジャーナリストでFOOCOMの編集長である松永和紀さんをお迎えして表記の講演会「食品の機能性表示制度:地域産業における意味と消費者が学ぶべきこと」を開催しました。56名の参加者で会場は満席状態でした。ありがとうございました。

ご講演のポイントは幾つかあります。情報が開示されると言う点では意味があるが、「それを誰が評価判断してどのように役立てるのか」という課題が浮かび上がりました。例えば、①トクホで安全性が問題になった機能性成分が市場に出てきている。②食経験の長さの中にサプリとしての市場経験がカウントされている。③疫学的データの取り扱いが極めてずさんである。

農産物についてはこれからの作業とのことであるが、地域の生産者にとっては「地理的真正」の方に関心があると思われる。一般消費者は急には賢くなれないので、これを啓発する非営利団体の活動が益々重要になると思われる。

日本人の食事摂取基準が大幅に改定されました

2015年版「日本人の食事摂取基準」が公示されました。10年ぶりの改定です。以下はその感想です。
(1)エネルギーの指標がkcalではなくBMIに
・高齢者のBMIでは高めの人よりも、低めの虚弱(Frailty)が懸念されています。
(2)食塩の目標量は引き下げ
・明らかにとり過ぎで(不足を心配する必要はないので)、推奨量は設定せず。
(3)コレステロールの目標量は無くなる
・摂取制限で起こる高齢者の低栄養対策を考慮。
(メタアナリシスでは冠状動脈疾患の予防効果が明確ではない)
・必須脂肪酸(n-6/n-3系)と飽和脂肪酸が重要で、トランス脂肪酸やEPA/DHAなど些末なことを気にしないように、と記されている。
(4)食物繊維では小児も目標量設定
・生活習慣病胎児期発症(DOHaD/ドーハド)説が根拠になっている。
・但し、サプリ等で過剰に摂取してもより多くの健康利益は無い、と記されている。
全般的に食品成分の個別の機能性について慎重であることがうかがわれます。
また、参考文献から、これまでの健康栄養研究から脱皮しつつあり、科学的根拠(データ)に基づいた設定がなされています。(10年前の)「鉛筆なめなめ作業」が大幅に減ったというコメントも聞かれます。
詳しくは「厚生労働省:日本人の食事摂取基準」 http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/shokuji_kijyun.html を参照ください。

松永和紀さんの講演会のお知らせ

「メディア・バイアス:あやしい健康情報とニセ科学」(光文社新書)で科学ジャーナリスト賞を受賞された松永和紀さんの講演会が6月5日に津駅に隣接する「ホテルグリーンパーク津」で開催されます。「機能性表示食品」がメインテーマです。地域産業における意味と消費者が学ぶべきことを話題にして頂きます。添付案内をご覧ください。松永先生講演会のご案内(5.3.15)

やっと春がきました。

クロッカスは咲きましたが、チューリップは未だです。等と言っている間に夏になってしまいます。北米の春は短いです。

英語ついでに食品類の賞味期限の英語表現です。英語では例えば “Best before  better after  Aug. 1st 2015″ と表わされます。日本語表現では8月1日を過ぎると賞味ががたっと落ちて食べない方が良いような感じを持ちます。英語では、better なので、自分が判断して食べるか捨てるかすれば良い、ということになります。もう一つの例として道路標識に見かける「落石」を挙げます。英語では”Fallen Rocks” あるいは “Falling Rocks” のどちらかが使われます。つまり、落ちて道路上にある石と落ちてくる石が区別されています。日本語ではどちらかあいまいです。でも、どちらも落石の二語で表現できるので、便利かもしれません。どちらの言語が科学に向いているかは論を待ちません。ではまたの機会に。

コロッカス